「とりあえず今から一週間タバコ禁止ね」
ある日、十代目からタバコ禁止令がおりた。

屋上でぼんやりとしていたら、突然影が差した。顔を上げると、そこにはヒバリが立っている。オレはぼんやりとその顔を見上げた。
「珍しいね、きみがここにいてタバコを吸ってないの」
言いながら、ヒバリはオレの隣に座った。大きなあくびをしているところを見ると、オレと同じくヒバリも屋上で昼寝をするために来たのかもしれない。
「十代目から禁止令が出たんだよ」
「へぇ」
ヒバリは不思議そうに眉を上げた。
十代目はオレのタバコの量をいつも気にしていたらしい。ボムに火をつけるために吸っている、と言うのが建前だったが、実際には日常生活のなかでも多く吸っていると自分でも思う。それを見かねたのが十代目だった。
「今はダイナマイト使わないといけないようなことないでしょ? そういうことだし、とりあえず今から一週間タバコ禁止ね」
というわけでオレはタバコを吸うことができない。手元にあれば吸ってしまうので、買うこともできなかった。
話を全部聞いたヒバリは、不機嫌そうに「ふーん」とだけ言った。

イライラとした気持ちは晴れずに、結局放課後までを屋上で過ごした。ヒバリしばらく眠ったあとどこかに消えたが、行き先は知らない。
教室にぽつんと残されたカバンを取って、オレは帰路につく。
家に帰るまでの道には、タバコの自販機が多々ある。年齢的に店でまとめ買いができないオレは、いつもそこでタバコを購入している。買いたいが買ったら吸ってしまう。吸ってしまったら十代目の信頼を損ねることになる。オレは目についた自販機の前で、イライラと足踏みを繰り返した。
「今日はよく会うね」
「うわ!」
突然後ろから声をかけられて、オレは驚いて身構えた。
「お、おまえ! 気配とかさせろよ!」
すぐ後ろに立っていたヒバリは、訝しそうに目を細めた。
「別に気配を殺してたつもりはないけど。何をそんなに熱心に……ああ、そういうこと」
オレの目の前にあるのがタバコの自販機だと気づいて、ヒバリはクスリと笑った。
「忠犬に徹するのも大変だね」
ヒバリはオレの手を取ると、すたすたとその場を離れた。手を引かれるまま、オレはヒバリの後ろを歩く。
「まったく、すっかり中毒だね」
呆れたようにヒバリは言うが、オレには返す言葉がなかった。ヒバリはオレとつないでいるのとは逆の手をポケットに入れた。取り出したものの包装を器用に片手ではがすと、中身をオレの口に押し込む。それは丸いあめ玉だった。
「そんなものしかないけど、ごまかせるんじゃないの」
「……サンキュー」
もごもごと舌を動かして飴を転がすと、甘いリンゴの味が口の中に広がった。

(おわり)

2008.1.22